最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)1273号 判決 1963年4月19日
上告人 有限会社 山田商店(仮名)
右代表者取締役 山田昇(仮名) 外一名
被上告人 川内春男(仮名)
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人諫山博の上告理由第一点(一)(二)について。
原判決が新民法(昭和二二年法律二二二号)附則二五条一、二項の解釈について判示の如く判断した上、本件大石一郎の家督相続人たる大石キクの代襲相続人(遺産相続人)を新民法附則二五条二項、新民法八八九条、同八八八条によつてキクの亡兄田辺四郎の二女藤田ツユ、同長男田辺庄平、同長女亡林ハナの二女藤田タミおよび長男林増郎の四名とキクの亡姉山田ミワの長男山田十郎および二男山田森男の二名合計六名と認定したこと並びに右庄平の昭和二〇年七月五日の死亡により、その長男田辺進が旧民法によつてその家督を相続し、また山田森男の同年八月一五日以後の死亡によつてその唯一の子である長男山田善郎が旧民法または新民法によつてその家督または遺産を相続した旨判示したことは正当としてこれを肯認し得る。
所論は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、原判決に所論の違法は存せず、論旨はすべて採るを得ない。
同第二点について。
所論は山田善郎が本件土地を上告人らに賃貸することは、共有物の管理行為ではなく、共有物の処分行為に該当するから、民法二五二条による持分の過半数だけではこれをなすことを得ず、同法二五一条の他の共有者全員の同意がなければならないにもかかわらず、原判決は持分の過半数か否かのみを判断して、他の共有者の同意の点について何ら審理判断していないと主張するけれども、上告人らは原審において右同意の有無については、主張しなかつただけでなく、原判決は、右善郎の本件土地に対する持分が過半数に満たないことを認定した上「たとえ善郎が単独で右宅地を控訴人ら(上告人ら)に賃貸したとしても……」と判示して控訴人らの賃借権が被控訴人(被上告人)その他の共有者に対抗することができず、控訴人らの賃借権の抗弁が採用し得ない判示の前提として右善郎の本件土地の賃貸が他の共有者の同意がなく単独で行われた旨を判示しているものと解せられるから、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。
同第三点について。
原判決が控訴人らの賃借権はそれ自体被控訴人らに対抗することができないことを判示した上、所論摘示の如く判示したことは、これを肯認し得るところである。所論引用の判例はすべて本件に適切なものではない。原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)
上告代理人諫山博の上告理由
第一点 原判決は新民法附則第二五条第一項、第二項の解釈を誤つている。
(一) 原判決は控訴棄却の結論を導きだす前提として、新民法附則第二五条第二項の解釈から手をつけている。原判決は、「新民法附則第二五条第二項により新民法によつて相続人となるものは、新民法施行当時なお生存するものでなければならないか」と設問し、「控訴代理人の主張はこれを肯定する見解にたつものであるが、新民法施行当時生存するものであることを要しないと解するのが正当である」と判示している。だがこのような理解は、新民法附則第二五条第一項、第二項の解釈適用を誤つたものである。新民法附則第二五条第一項は、「応急措置法施行前に開始した相続に関しては、第二項の場合を除いて、なお、旧法を適用する」と、新民法不遡及の大原則を掲げ、第二項で例外的に適用を遡及さすべき場合を規定している。本件相続関係にはこの第一項が適用さるべきものであつて、同条第二項が適用になる余地はないからである。原判決は新民法附則第二五条第二項の意味を、「家督相続人を選定すべき場合に新民法施行前にその選定がなされなかつたときは、その選定をしないで、その相続に関してはあたかも相続開始当時新民法が施行されていたと同様に取扱い、新民法によつて相続人を定めようとする趣旨であるから、応急措置法施行前に開始した相続についてその相続開始当時生存していたものは、新民法施行前に死亡した場合でも新民法によつて相続人となり得るのであつて、そのものの死亡によつてさらに相続が開始することになる」としているが、このように解釈する合理性はどこからもでてこない。むしろ率直に、昭和六年二月五日に大石一郎が死亡したときには、大石一郎には旧民法第九八二条によつて選定家督相続人に選定さるべき者(配偶者、兄弟、姉妹、第一号に該当せざる配偶者、兄弟姉妹の直系卑属)が存在していなかつたという事実に照らし、本件では新民法附則第二五条第二項の「家督相続人を選定しなければならない場合」に当らないものと解すべきである。これに反する判断をした原判決は新民法附則第二五条第一項、第二項の解釈適用を誤つたものであり、この誤りのため本件土地に所有権を有しない被上告人が所有権を有するという誤つた結論が引きだされているので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄さるべきである。
(二) 原判決は右に引きつづき、「新民法附則第二五条第二項により新民法によつて相続人となつたものが、応急措置法施行前に死亡していた場合には、その相続については新旧いずれの民法を適用すべきか」と設問して、「被控訴代理人の主張は新民法説に依拠するものであり、これと同様の学説もないではない。しかし新民法附則第二五条第一項により旧民法を適用すべきものと解するのが相当である」と判示している。これもやはり誤りである。原判決は、そう解すべき根拠を事例をあげて詳しく説明しているけれども、上告人は右結論に賛同することはできない。これまた新民法附則第二五条第一項、第二項の解釈適用の誤りというほかなく、この誤りは(一)と同じ理由で判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄さるべきである。
第二点、第三点 省略